真夜中のマタドール
毎度のことで、寝られません。睡眠薬と安定剤飲んだのに。
眠気倍増の為、マタドールを作った。テキーラ好き。パイナップルジュースとライムジュースで割る。パイナップルって香ばしい感じ、べっこうあめを想像してしまう。
テキーラはミネラルのせいか塩分を感じる。硬いミネラルウォーターとか海洋深層水に似てる気がする。荒れ地や砂漠のサボテンから採取するんだからパワーが強そう。
Android携帯からの投稿
毎度のことで、寝られません。睡眠薬と安定剤飲んだのに。
ジョン・キューザックの顔を見ると「あ、変態」と思うようになってしまった。ファンの皆様、ごめんなさい。『ペーパーボーイ 真夏の引力』のイメージが強い。
バスに乗っている。午前8時過ぎ。大久保にある診療所に向かっている。夜中の舌キノコはちょっとした事件だった。あたしだけしか知らないけど。あ、電話した医者も知っている。だが奴は大したことないと思ってるに違いない。「手首切っちゃいました」とか「オーバードースしちゃいました」とか、およそ死ぬ気もないくせに、かまって欲しくてたまらない患者から、夜中にかかってくる電話の類いだと思われてるだろう。
舌のキノコを抜いてからの出血はすぐにおさまった。というか事前に服用してた睡眠薬が効いてきて、ぼんやりしてる間に痛みや出血は緩やかになったようだ。朝になって鏡を見たら、舌は赤紫の不気味な色に変わっててボワっと膨らんでいた。
診療所が何時からかわからないけど「朝一で来い」と言われたのだから正々堂々と向かってよいはずだ。それでバスに乗った。電車の方が早いけど、目的地は大久保と新大久保と新宿のちょうど真ん中くらいにある。どこの駅で降りても10分は歩かなければならない。それならば近くに停留所のあるバスに乗った方がいい。時間は倍近くかかるが、あたしの家のそばから乗れる。
一応タオルは口に突っ込んだままにしてる。その方が落ち着く気がする。晴れた日だ。秋晴れって感じ。運動会とか遠足とか、そんな幸せな匂いがムカつく季節だ。キノコ女のあたしは全然幸せじゃないし。
30分ほどで大久保に到着。古いマンションのような雑居ビルの3階に診療所はある。階段を上がり薄暗い右の奥、看板は出てない。チャイムを押す。中で鳴ってる音は聞こえるが反応はない。携帯電話で時間を確認すると8時50分。ふん、9時ぴったりまで開けないつもりなのか。デパートか貴様は。朝一で来いと言ったのは貴様だ。チャイムを連打する。反応なし。医者の番号にも電話するが出ない。
仕方なしにビル内をゆらゆらと歩く。タオルを口に突っ込んだ顔色の悪い女は、2階の「ビューティサロン」を覗く。韓国人専用のパーマ屋。いつも不思議なのだ。いまどきの韓国人は整形バリバリの芸能人みたいなのが主流だと思っていた。しかしここの「ビューティサロン」は昭和の雰囲気そのものだ。韓国に昭和ってのもないだろうが。目にツ~ンとくるパーマ液の匂い。貼ってあるポスターは水商売のおねえさんみたいに髪をセットした女。サイドの髪を不自然なほど後ろに流し、化粧は濃く笑っている。凄いアイライン。赤い口紅に青いシャドーも迫力ものだ。働いてる白衣のおばさんはパンチパーマのデブで、トイレ用っぽい茶色のゴムサンダルを履いて、けたたましい声で喋っている。このひとに髪をいじらせようという韓国人がいるのが七不思議だ。
2階の反対側には24時間営業のアジアスーパーっていう食材店がある。アジアといってもタイの食材ばかりだ。たまにベトナムのがあるくらい。店先で段ボール詰めしてるのは知った顔だった。いつも笑ってるタイ人の男。レジにいたり冷凍の蛙を棚に陳列していたりする。前に青パパイヤを買ったら、バジルシードのジュースをくれたことがある。「サワディークラー」、声をかけられた。「シャワディーコワ~」とタオルを指差しながら応える。喋れなくってすみません、という意味のつもり。不信そうな顔を一瞬見せた男だが、さすが仏教国、またヘラヘラと笑って店内へ戻って行った。
そろそろいいだろうと3階の診療所へ向かう。再びチャイムを鳴らすと「はーい」と明るい声が聞こえた。金澤さんが出勤して来たんだなと思う。医療事務の彼女はここで唯一まともな人間だ。患者も医者も壊れてる奴らばかり。お金を扱ったり、医者の秘書的なことするひとぐらいは真っ当な方がいいだろう。
「あら、ルキさん、今日は早いんですね」とドアを開けながら言う。「ひょっとひんひゅーじたひれ」、ちょっと緊急事態でと言ったつもり。出されたスリッパを履く。「先生、ルキさんがいらっしゃっいましたよ!」と部屋の奥にある棺桶のような箱に叫んでいる。「先生、先生!」と棺桶を叩く金澤さん。
のろのろと棺桶の蓋が開いた。「生還~!」と起き上がったのが、あたしの主治医だ。「いや~酸素カプセルは生き返るよ。君も試してみればいいのに。5千円に負けとくよ」と言う。ひょろひょろの貧弱な髪が変な癖のまま、医者の頭を覆っている。ひよひよ頭のこいつを、これからはヒヨコと呼んでやる。ヒヨコがカプセルに何時間入ってたのか不明だが、生き返ったようには見えない。
「で、なんだっけ?また死にたくなっちゃった?」、違います、と言いたいがきっと「ひがいまひゅ」になるから黙ってタオルを取り舌を見せる。
ヒヨコはぱっと見ただけで「こりゃヤバいな」と言う。カルテになにやら書いている。覗くとドイツ語なのか読めない文字だった。「胞子類が寄生してるんだろうね。まあ、そんなに危険なもんじゃないけど、舌はイカレちゃったねえ。壊疽起こしてる1cmか2cmかは切断しないと」
ひえ~、舌って切るものなのか、っていうか切って平気なの?と疑問と不安は尽きない。
するとヒヨコは「今はいい義舌もあるから大丈夫だよ。滑舌も良くなるし、歌も上手くなるよ」と言う。本当だろうか、やけくそな気分になった。
※これは完全なるフィクションです。
lukiオフィシャルサイト
http://lukirock.com
眠れないからマイスリー飲む。少しの高揚感が楽しくなってきた。
テレビつけたらムービーチャンネルで『ミッドナイト・イン・パリ』を放映するという。