母の身終い
かなり衝撃的な作品。ただいま上映中。
フランス映画です。ステファヌ・ブリゼという監督は今までもセザール賞を受賞していて、人間の感情の機微を描くのが上手いひとです。
今回の『母の身終い』ってのは、脳腫瘍が悪化して余命が見えてしまったひとがヒロイン。フランスの大女優エレーヌ・ヴァンサンがやってます。とても美しく知的な彼女ですが、ここでは少し小うるさい老女の感じでした。
そのひとり息子をやるのがヴァンサン・ランドン。『女と男の危機』や『すべて彼女のために』などで知られてるひと。麻薬の密売で服役して出所してきたという設定です。
このふたりの静かな日常で起こるドラマが凄い。母は余命を考え尊厳死を選ぶことを告白。病院で意思と関係なく繋がれ死んで行くのが嫌だと。自分のタイミングでプライドを維持した状態で逝きたいということだろう。
スイスには看取りの家というのがある。刑法により医師の薬物処方による患者の自殺を許可しているのだ。条件が合えば外国人でも適用可能。もちろん絶対に治る可能性のない病気の場合だが。多くの審査を経て登録し、看取りの家についてからは五日間過ごす。その間も引き返せるように度々意思の確認が行われ、揺らがないなら五日目に患者自らが服薬し、40分程度で死亡できるそうだ。
この作品のヒロインもその施設を利用する決断をする。それに付き添う駄目人間の息子の様子が泣ける。
死ぬのは怖い、嫌だ、苦しい、などとのたうちまわることもない落ち着いた部屋。可愛らしいベージュ系花柄のベッドヘッドに寄り掛かる小さな母親に向き合う中年の息子。さして仲も良くない関係だったはずだが、一本のワイヤーのように細く確実に繋がる絆が見え隠れする。
末期医療の在り方を考えてしまった。映画としても、人間の弱さや凄みをさりげなく出す演出が素晴らしい。
お正月にこういう作品を味わうのもいいかもしれません。