はらはら
落ち葉が落ちてくる。いい匂い。
毎日走って筋トレして、少し疲れた気がする。なんか腹筋痛い。
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2007年の『シルビアのいる街で』は好きな映画だった。カフェで見かけた綺麗な女の子をひたすら付け回す画家の男視線の作品だった。なにも起こらない淡々としたストーリーながら、美しい街の風景と共に記憶に刷り込まれる。あれは劇場映画の効能を知っているひとならではのものだった。
小人とはあれ以来会っていない。しかし舌のキノコが伸び続けることもないから、睡眠中に刈り取られているようだ。また目撃してやろうと、一晩中寝たふりをしようとしたこともある。だが一瞬訪れる睡魔で意識が遠退くとき、小人は素早く来ているようだ。朝起きて舌の感触を確かめると、明らかに突起物の断面が鋭角なっている。
このひと月は無駄に疲れた。ポン引きヨシカワに紹介された客が最悪で、なんだか本当に落ち込んだ。ヨシカワにしてみれば楽に金を落とす人種はVIPなので、「大変いいお客様なんですよ、ルキさんの写真をお気に召したようで」と六本木ヒルズにあるホテルのロビーでセッティングされた。
「大変いいお客様」はその高級ホテルの部屋を取っているわけではなく、すぐさま路上駐車している車に乗せられた。ずんぐりむっくり、ってこういうひとのこと言うんだろう。顔はケーシー高峰さんみたいだった。いや、ケーシーさんはケーシーさんだから価値があるが、「いいお客様」は尊大な嫌な感じのオーラをバシバシ出していた。
「ルミちゃんはあんなとこにいちゃ駄目だよ、あそこはすぐに辞めなさい。おじさんとだけ会うんだよ」と運転しながら不気味なことを言う。だいたいルミじゃないし、ツッコミ入れるのもかったるい。「でも毎月苦しいからバイトしないと」と可愛げに言ってみると「僕は毎回払うのやだから月末にまとめてお小遣あげるからね」と言う。金額が気になるぜ!と、がつがつしたくなるのを堪え、控え目な大人しい女の子みたいに同情を誘いつつ交渉し、15万に落ち着いた。あたしの中の計算では月3回として1回あたり5万なら耐えられそうだ。月5回で1回あたり3万じゃ無理な相手だ。
「僕はおばさん嫌いだからルミちゃんが27くらいになったら別れてあげるからね、結婚する男もつけてあげるよ。でもセックスはたまにしてあげるからね」などと、あんた何様?状態の発言を、どこかの汚染水のようにだだ漏れ状態。
あたし的には都内でさっさと済ませたいのだが、「いいお客様」はあたしを拉致した後は、なんと葉山マリーナまで連れて行った。自慢の無意味にバカでかい舟を見せられる。バブルのときは盛り上がってたんでしょうね、と言いたくなる気持ちは抑え「すご~い!すご~い!」とサービストークを頑張る。その後、敷地内にある昭和の団地みたいな住宅に連れて行かれた。どこもかしこも旧く寂れていた。畳敷きの室内はディスカウントショップで安易に買ってきたものが散乱してて、蛍光灯が白々と点いていた。
プレイは面白いのかもしれない、と残された微かな期待は簡単に裏切られた。オレンジ色の黴がヌルヌルする狭い風呂場から出ると、イノシシのように「いいお客様」は突進してきて、触る、舐める、挿入する、放出する、など数秒ずつ4コマ漫画の如くこなした。あたしはまともに接するとおかしくなりそうで、天井の蜘蛛を観察することに終始した。
それから駅前のシャッター商店街みたいなとこの寿司屋に連れて行かれた。「いいお客様」は焼酎に胡瓜の千切りをたくさん入れたものをバカみたいに飲む。「君みたいな女の子が来れる店じゃないんだ」と金持ち発言を、気持ち良さそうに撒き散らしている。あたしは刺身には手を出さず、瓶ビールをひたすら空ける。すぐに泥酔した「いいお客様」は葉山マリーナに泊まるみたいだった。
そんなの冗談じゃないあたしは、交通費だけは今日下さいと伝え、5000円ぶん取り電車に乗った。何故こんなとこから帰らなきゃいけないのだろう、終電も危ないし本当に交通費だけの実入りだし。
そのひととはかっきり3回だけ会うように調整した。それでも愛人を所有した気分の「いいお客様」は、伊豆の安い温泉施設に拉致したり、男同士が「先輩、後輩」などと盛り上がる桜新町の炉端焼き屋で、「ああ、あれは俺の女」と言われ、隅で笑ってる女の子役をさせたり、充分に満喫しただろう。恵比寿の昭和な喫茶店で、出し渋る15万を強行に頂き終わりにした。
※これは完全なるフィクションです。
そのユダヤ人哲学者の人生は、逆境に立ち向かい真実を訴え続けるものだった。『ハンナ・アーレント』はニュー・ジャーマン・シネマを牽引する世界でも有名な女性監督マルガレーテ・フォン・トロッタの作品。悪とは何か、思考する女性の姿に深く迫っている。
こんなとこで