ブエノスアイレス恋愛事情

2007年の『シルビアのいる街で』は好きな映画だった。カフェで見かけた綺麗な女の子をひたすら付け回す画家の男視線の作品だった。なにも起こらない淡々としたストーリーながら、美しい街の風景と共に記憶に刷り込まれる。あれは劇場映画の効能を知っているひとならではのものだった。

そして今回紹介したい『ブエノスアイレス恋愛事情』はそのシルビアをやってたピラール・ロペス・デ・アヤラが主演している。アルゼンチンの監督グスタボ・タレックの長編デビュー作品になる。彼も『シルビアのいる街で』にやられたらしい。是非ともピラールに出て欲しいと、スペインの彼女に連絡したら快諾されアルゼンチンまでやってきたという。
ブエノスアイレスは不思議な街だ。古い古都を思わせる重々しい建物と、現代の簡易で悪趣味なものが混在している。若者が作る現代アートや落書きで、汚されてるのか昇華されているのか不明な街。
そこに住む独身男女。ふたりは知り合っていない。女はエレベーター恐怖症で、一応、建築家。主な仕事はショーウインドーのディスプレイ。男は広場と人込み恐怖症で、引きこもりのウェブ・デザイナー。それぞれコンクリートのビルの一室で孤独な生活をしている。
観客から見ると、ふたりは相性ピッタリに思える。似たようなオタクだし、年齢も近い美男美女だし。いつかふたりに運命の出会いは訪れるのか気になる。

この作品は独特の雰囲気がある。ブエノスアイレスがタンゴって決めつけるのは誤りだとわかる。現代の都市という意味ではTOKYOとも近いかもしれない。古いものと新しいものが共存し、どちらかがどちらかを隠したがってるような。街の成長と退廃が、恋愛の行く末と絡む。
非常にお洒落で粋な作品だった。本日から新宿K’sシネマほか全国順序公開。


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