ムービー43

これ最高!試写会で担当のひとにそう伝えた。そしたら、その広報の女のひとはそそくさと逃げて行き、評論家っぽい中年男性を追いかけアピールしていた。
どこもかしこも駄目っぷりが素晴らしい『ムービー43』。コメディーと下ネタが大好物の私にはぴったりな作品。世界に酷評の嵐を吹き荒らしているらしい。
デニス・クエイドがいっちゃってる脚本家を演じるオープニング。「心温まる映画だが、ヒットも狙える」と大物プロデューサーを押しかける。その彼の喋る作品のアイディアがとんでもないものばかり。
私は「ネック・ボール」でノックアウトされた。キャリアウーマンのケイト・ウィンスレットが法律事務所の重役でイケメンのヒュー・ジャックマンとブラインドデートをする話。高価そうなストールを外したヒュー・ジャックマンの首に放送禁止のものがぶら下がってる。しかも誰も気にしてない様子。エアコンが寒いと縮こまり、飲み物に浸かりそうになる。超セレブな会話しながら連動して動く物体。ケイト・ウィンスレットのリアクションがリアルで、私のツボに入ってしまった。思わず吹き出した。涙が出るほど笑ってたら、隣の男の人が引いていた。でも、そのうち会場中に伝染したようで結局、皆様大爆笑になってしまった。
そのあとに続くエピソードも下品、下劣、下衆の3Gを貫き通す馬鹿ばかしさ。出てくる俳優は豪華過ぎる面々。なんで出たの?キャリアは大丈夫?って感じの可哀相なものばかり。
非常に大掛かりにB級を仕立て上げたような遊び心というか、どこまで本気でどこからが投げやりなのかわからない。とにかく「酷評」をお願いしたいらしい。
でも残念ながら私は楽しく拝見しました。
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トラブゾン狂騒曲~小さな村の大きなゴミ騒動~

音楽と料理のミラクルを映画にした『ソウル・キッチン』は大好きな作品だ。新しいお洒落なドイツが垣間見れるようだった。そのファティ・アキン監督の新作がドキュメンタリー『トラブゾン狂騒曲~小さな村の大きなゴミ騒動~』。
かなりシビアな作品。ファティ・アキンはドイツのひとだけど、祖父母はトルコ東北部のトラブゾンという黒海沿岸の出身。結婚を反対された若いふたりは駆け落ちし、小さなチャンブルグ村に落ち着いたそうだ。2005年に訪ねてみたファティ・アキンは、その美しさに驚き「トルコはアジアだ、ここが天国だ!」と思ったと言う。暑く、湿気が多く、濃い緑の風景。
しかし、驚愕の事実が知らされる。ここはゴミ処理場になるのだと。もちろん村人たちは反対運動をしていた。だが小さな村の声が上に届くのは簡単なことではない。
そこで彼は立ち上がった。映画に撮ると。2007年のカンヌで最優秀脚本賞に輝いた『そして、私たちは愛に帰る』のラストシーンを美しいチャンブルヌで撮った。その翌年から、このドキュメンタリーに取り掛かったそうだ。
鉱山の巨大な穴に廃棄され溜まって行くゴミ。誰の目から見てもずさんな方法で、5日目にして汚染水は溢れ運河と小川に流れ込む。土で覆ったら汚水は更に上がってきて、悪臭は1キロ先の住民まで届く。楽しそうに海水浴をしている子供たちは、消化系疾患の症状を訴えるようになる。野生動物により汚染物質が畑へ運ばれる。注射器が落ちていた。動物の死骸が腐っていた。変な泡も出ていた。危険な化学物質はそこら中に撒き散らされる。それでも2011年まで対策を取られることはなかった。そして処理場はあと2年の稼動を予定している。
ひどい話だ。他人事ではないなと思う。福島の現状も同じような構造で扱われている。多く(一部?)のひとの利便性の為に、あなたが我慢してくれるますか?って言われてるようなもんで、なんだか許せない。じゃ、そっちが同じ状況ならどーするの?って感じ。
おじいちゃんが鰯を食べていた。生の玉葱を一緒にバリバリやってる様子がトルコっぽかった。土地を愛してここから離れないひとたち。涙が出た。
たくさん楽しい作品を撮って賞も貰ってるファティ・アキンが、こんなにシビアな作品を発表することは、リスキーとも言えるだろう。ファンを遠ざけることもあるだろう。でも私は彼をとても信用できると思った。アーティストやクリエーターは逃げちゃ駄目だ。世界や身近で起きてることを無視してはいけない。娯楽を作る人間でも、どこかでわかってるべきだと私は思う。ちゃんと向き合うファティ・アキン監督に称賛をおくりたい。
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