トラブゾン狂騒曲~小さな村の大きなゴミ騒動~

音楽と料理のミラクルを映画にした『ソウル・キッチン』は大好きな作品だ。新しいお洒落なドイツが垣間見れるようだった。そのファティ・アキン監督の新作がドキュメンタリー『トラブゾン狂騒曲~小さな村の大きなゴミ騒動~』。
かなりシビアな作品。ファティ・アキンはドイツのひとだけど、祖父母はトルコ東北部のトラブゾンという黒海沿岸の出身。結婚を反対された若いふたりは駆け落ちし、小さなチャンブルグ村に落ち着いたそうだ。2005年に訪ねてみたファティ・アキンは、その美しさに驚き「トルコはアジアだ、ここが天国だ!」と思ったと言う。暑く、湿気が多く、濃い緑の風景。
しかし、驚愕の事実が知らされる。ここはゴミ処理場になるのだと。もちろん村人たちは反対運動をしていた。だが小さな村の声が上に届くのは簡単なことではない。
そこで彼は立ち上がった。映画に撮ると。2007年のカンヌで最優秀脚本賞に輝いた『そして、私たちは愛に帰る』のラストシーンを美しいチャンブルヌで撮った。その翌年から、このドキュメンタリーに取り掛かったそうだ。
鉱山の巨大な穴に廃棄され溜まって行くゴミ。誰の目から見てもずさんな方法で、5日目にして汚染水は溢れ運河と小川に流れ込む。土で覆ったら汚水は更に上がってきて、悪臭は1キロ先の住民まで届く。楽しそうに海水浴をしている子供たちは、消化系疾患の症状を訴えるようになる。野生動物により汚染物質が畑へ運ばれる。注射器が落ちていた。動物の死骸が腐っていた。変な泡も出ていた。危険な化学物質はそこら中に撒き散らされる。それでも2011年まで対策を取られることはなかった。そして処理場はあと2年の稼動を予定している。
ひどい話だ。他人事ではないなと思う。福島の現状も同じような構造で扱われている。多く(一部?)のひとの利便性の為に、あなたが我慢してくれるますか?って言われてるようなもんで、なんだか許せない。じゃ、そっちが同じ状況ならどーするの?って感じ。
おじいちゃんが鰯を食べていた。生の玉葱を一緒にバリバリやってる様子がトルコっぽかった。土地を愛してここから離れないひとたち。涙が出た。
たくさん楽しい作品を撮って賞も貰ってるファティ・アキンが、こんなにシビアな作品を発表することは、リスキーとも言えるだろう。ファンを遠ざけることもあるだろう。でも私は彼をとても信用できると思った。アーティストやクリエーターは逃げちゃ駄目だ。世界や身近で起きてることを無視してはいけない。娯楽を作る人間でも、どこかでわかってるべきだと私は思う。ちゃんと向き合うファティ・アキン監督に称賛をおくりたい。
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