リヴ&イングマール ある愛の風景
『野いちご』や『処女の泉』などの傑作で知られるイングマール・ベルイマン。人間の本質を静かに見つめた作風に多くの映画作家が影響を受けた。生きながら伝説の巨匠となった彼が、この世を去ったのは2007年。
本作はイングマール・ベルイマンとミューズであった女優リヴ・ウルマンの愛と友情の物語である。ウルマンの自伝『チェンジング』に関する彼女へのインタビューと、現存する撮影風景の影像を中心に構成されたドキュメンタリー作品だ。
カリスマミュージシャンとの恋愛とか、バンドの元メンバーが語るぶっちゃけものとか、そういう映画はとても多い。小説家が死ねば奥さんやら愛人やらが出てきて「実はこんなで、あんなで」なんてパターンもある。正直好きじゃない。アートを守るべき立場の人間が、死人の品位をおとしめているように感じる。だからこれも期待していなかった。どうせ、おねーちゃんが腹いせ混じりに「あいつは酷い男で」という話だと思ってたから。
全然違った。「痛いほどの絆の物語」とはよく言い得ている。ベルイマンが彼女との愛の証に書いたハートマーク。ドアの落書きなんだけど、それが消えないように毎年ペンでなぞっていたらしい。ふたりで家を建てたスウェーデン、フォール島での暮らしに、彼女は閉塞感とベルイマンの独占欲に苦しみ5年でギブアップした。しかしその後、50年にも渡り友情は続く。互いに芸術を創るものとして尊敬しあっていたことがわかる。
ベルイマンは彼女と別れてからもずっとフォール島で暮らした。ある日突然ウルマンは彼に会わなければと何故か感じ、飛行機をチャーターし駆けつけた。「何故来た?」「呼んだでしょう?」という会話した夜、ベルイマンは死んだ。奇跡的な絆ではないだろうか。
本作のインタビューはベルイマン家で行われたのだが、その最中に偶然見つけたもの、ベルイマンお気に入りのクマのぬいぐるみ(こういうの持っているのが意外)の中に隠されていた手紙。それは昔、ウルマンが彼に送ったラブレターだった。
なんだかベルイマンの見方が変わった。決して悪い方に変わっていない。神や孤独や苦悩を描く難しい作家の中味は、ロマンティックで息苦しいほど純粋な人間だったのだと思った。リヴ・ウルマンがベルイマンとのことをひけらかしもせず真摯に語っていた様子に、魂の触れ合いと深い愛を感じた。
12月7日からロードショー。