今月の山田ルキ子

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こんにちは。山田は夏でも元気です!Cut9月号発売されました。
私の映画コラム『小さなスクリーンの中で生きていたい』は41回目。
選んだ作品はアイルランドのアニメ『ソング・オブ・シー 海のうた』とミシェル・ゴンドリーの新作『グッバイ・サマー』です。
夏らしく冒険ものですが、私の取り上げるものは一味違います。ものすごいパワーのあるワクワク感、きっとお楽しみいただける二作品です。
ぜひご鑑賞の参考にご一読ください。

みかんの丘、とうもろこしの島

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ヤバいものを観てしまいました!『みかんの丘』、『とうもろこしの島』という2作品です。共にコーカサス(グルジア)の近年を代表する傑作映画とのこと。

こういうのって歴史や社会的な意味合いが強い芸術作品なんだろうな、と予想されます。ぶっちゃけいうとあまり面白くないだろうなと。
しかしです、この2作品はメチャクチャ面白く、全く眠くなる瞬間のない凄い作品でした。笑ってしまうシーンも多数。
タル・ベーラ監督の『ニーチェの馬』って観たことあります?あれに心を惹かれたひとなら、まずど真ん中で好きだと思います。あれがダメなひとでも楽しめるかと思われます。

この2作品、どんなものかと申しますと、1991年のソ連邦崩壊の後に起きたアブハジア紛争と呼ばれる戦争時の物語です。
遠い日本で暮らす私たちにはあまり馴染みがないですが、地続きの土地で顔も性格様式も同じような民族同士が争う世界っていうのが結構あるのですね。親戚のおじさんが敵地にいたりすることもあるのだと思います。

ギオルギ・オヴォシュヴィリ監督の『とうもろこしの島』は両者を隔てる場所で暮らすおじいさんと少女の話です。その場所とは川の中州で、凄く小さな島状態になったところ。ふたりは小舟で来て周りの土地から運んだ木で小屋を建て、川で魚を捕り干物を作り、トウモロコシの種を撒いて育て始めます。その描写のひとつひとつが面白く息を飲んで観てしまいました。ただ戦争している真っ最中で、ここは敵同士が激しく銃を向け合う場所です。
とても寓話的です。美しくもあり恐ろしさもあるものでした。

そして『みかんの丘』。こちらはアブハジアでみかん栽培をするエストニア人の集落が舞台です。ジョージアとアブハジア間の紛争が勃発し帰国するひとが多い中、残ったイヴォとマルゴス。大量のみかんを収穫して手作りの木箱に詰めてます。そこに長閑さを打ち破る銃声が聞こえます。
幾つもの死体と車。彼らはそこで負傷しつつも生き残った2人の兵士を助け、部屋で介抱します。包帯を巻いてやり温かいスープを飲ませます。しかしこの2人の兵士は実は敵同士。憎み合っていて、治ったら殺してやるという勢いです。
それでもイヴォとマルゴスの人間性の深さに触れ徐々に変化が現れます。
こちらの監督であるザザ・ウルシャゼは「芸術で戦争を止めることができるとは思わない。しかし、もし戦争を決断し、実行する人たちがこの作品を見て、少しでも立ち止まり、考えてくれるならば、この芸術を作った意義があったと考える」とメッセージを残しています。

意義、大いにあると感じました。
ぜひ世界中のひとと分かち合いたい2作品でした。
っていうか既に諸外国で絶賛されています。
日本はどうも最後あたりだったようで。
何はともあれ、9月から公開が始まります。東京では岩波ホール。時間表みると、丘、島、丘、島ってなってます。なんか面白い。
娯楽性が高くポケモンゲームをやるフツーのノリで観て感動できるかと思います。
ぜひぜひ劇場で!

今月の山田ルキ子

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毎度お世話さまです。山田は元気です。Cut8月号発売中です。
私の映画コラム『小さなスクリーンの中で生きていたい』は40回目になりました。
取り上げたのは『イレブン・ミニッツ』と『生きうつしのプリマ』。
『イレブン・ミニッツ』はポーランドの巨匠、イエジー・スコリモフスキ監督の新作です。08年に『アンナと過ごした4日間』で復活し、10年には『エッセンシャル・キリング』でキレッキレの現役感を見せてくれたので、その流れかなぁと油断してました。とんでもない!また更に進化した作風で勝負してます。恐るべき78歳。
『生きうつしのプリマ』は『アンナ・ハーレント』のマルガレーテ・フォン・トロッタ監督&主演のバルバラ・スコヴァが再びタッグを組んだ力作。女性の強さと哀しさを美しく描いてます。監督自身の自伝的な意味合いもあって見応え充分です。
ご鑑賞の参考に是非ご一読ください。

やっぱりホラーが好き

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今日は『死霊館 エンフィールド事件』を観ました。『ソウ』や『インシディアス』などで知られるホラー界の大御所ジェイムズ・ワン監督の新作です。久しぶりにガツっときたホラーでした。

これ、実話なのです。1977年のロンドン北部エンフィールドで起きたポルターガイスト現象で、実際の音声や映像なんかも残っていて警察にも保管されてるとか。

シングルマザーと4人の子供たちが家に棲まう奇怪なものに攻撃され続けます。
大ヒットした『死霊館』に登場した超常現象研究家夫婦がまたまた立ち向かいます。

先日観た『ダゲレオタイプの女』はメチャメチャ湿度の高い日本的な怖さだったけど、こちらは西洋的な怖さ。いかにも事情のありそうな幽霊さんが何かを訴えるのとは違い、ベッドも包丁を空中に飛ばす理解不可能な異形のものです。
個人的怨みつらみより世界征服を狙っているようなグローバルな悪魔です。その感覚が面白い。でもこれが実際に起きたってことは、心霊界もお国柄があるのでしょうか。
日本では豪雨や雷を落としながら家をぶっ壊すお化けの話はあまり聞きません。深夜のトンネルや病院やタクシーとかに上品に出るというパターンが多い。暗い顔で佇む程度で、いきなり殴りかかってきたりしません。

西洋のお化けはワイルドですね。
それはそうと、この作品のチームが製作した『アナベル 死霊館の人形』を観たとき、試写場にアナベルちゃん人形が展示されてました。感動して写メを撮りブログに上げようとしたら、ケイタイが壊れました。
写真のバックアップ関連も消えてしまいました。たまたまでしょうが、思い出深いです。
今回も少し怖れてましたが大丈夫でした!

7月9日よりロードショーが始まります。
一見の価値ありです。

ダゲレオタイプの女を観て思う

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昨日は黒沢清監督の新作を観ました。フランスで撮影された『ダゲレオタイプの女』です。全編フランス語で景色も色合いもフランスそのもの。
とても良かったです。ダークな幻影なような雰囲気。哀しいホラー・ラブロマンスです。
でも、思ったのは黒沢さんはフランスで撮っても日本だなぁということ。
死生観とか感情の機微が非常に日本的。それはとてもいいことで他国に誇れるものだと思います。
主演はタハール・ラヒムです。彼は『屋敷女』や『預言者』の頃から私、ずっと推してます。もちろん勝手にですが。予想通りというか、当然というか、今やフランスを代表する俳優になってます。
今回はメチャクチャこの人って器用!って感動しました。だって最後には日本人に見えてくるほどですから。
通常のフランス映画に出てくるフランス人はもっと大雑把じゃん、いい加減な癖に不機嫌そう(でもなぜか洒落ててカッコいい)で、議論のときだけ妙にテンション高い、というのがザ・フランス人でしょ。圧倒的偏見に満ちた私です。タハール・ラヒムは下心もある策士で、細かな愛情もある難しい役柄(とても日本的)を見事にこなしてます。
ヒロインのオリヴィエ・グルメも『女っ気なし』で観たときと変わってて、繊細なジャパニーズガールの雰囲気になってました。
フランス映画のフランス女は、もっと肩や胸を出しまくり、髪も起き抜けみたいでヨレヨレシャツを着たかと思ったら、次の瞬間は女豹のような目で男を射るものだと思ってました。オリヴィエさんは日本人みたいにスリムで、可愛いミニワンピとかタイツとかで、フェロモンは極力避けてるような印象。

マチュー・アマルリックが出てるのは彼の映画魂かなと。彼は映画監督でもあるし、大御所や際立ったひとの作品には参加したがる。探究心がそうさせるような。だって別に彼の役はそれほどメジャー俳優でなくても良さそうなものだったから。

そんなことを考えながら観てました。
私自身がレコーディング中だから、特に思うところがあったようです。洋楽はもちろん参考にして作るわけで、でも出来上がるのは紛れもなく日本のもので、またそうでなければいけないような気がします。
それが例えギリシャで作ったりアイスランドで録音したものであったとしても、しっかり根付いているものは捨てずに大事にしたい、そんな風に思いました。

『ダゲレオタイプの女』は10月からロードショーが始まります。またヒットするんだろうなぁ。