南の島の大統領ー沈みゆくモルディブー

レディオヘッドの曲が幾つも流れる『南の島の大統領ー沈みゆくモルディブー』はドキュメンタリー作品。
世界でも最も低い位置にあるモルディブは、たった1メートル海面が上がるだけでも国土の大半が水没する。美しい海に黄金の砂浜、椰子の木。モルディブはインド亜大陸の南西部にあり、1200ものサンゴ島からなる国だ。
民主化されたのは2008年。それまでの独裁政権は酷いものだった。警察に無下に殺された少年の母親が、拷問され撲殺された遺体を公開した頃、革命への強い意思が市民を動かした。その中心になった人物こそモハメド・ナシードだ。彼自身も度重なる投獄と拷問を体験しながら、民主化運動を20年にわたって主導してきた。イギリスやスリランカで教育を受けたナシードは国際的な視点を持つ指導者で、41歳にしてモルディブの大統領に就任する。この映画はナシードの就任1年目の活動を追ったものだ。
彼は民主化を成し遂げた喜びなどなかったに近い。何故なら地球温暖化の問題が、今まさに首を締め付けようとしていたのだから。彼は言った。「モルディブが沈みつつある中、我々はインドやオーストラリアなど新しい土地を見つけて移住しなければならない」と。大統領自ら、なにを言ってんだと思われるが、本当に切羽詰まってるのだ。また「2009年には再生可能エネルギーを導入し、10年のうちに二酸化炭素排出をゼロにする」と公約にした。
監督のジョン・シェンクは最初、「こいつの言ってることは信じられない」と思ったそうだ。でもこの小国の問題に世界の目を向けさせる為には、劇的かつ率直な意見を出してゆくことが確かに効果的であると感じたようだ。
ナシードは国際会議においても、なりふり構わずというか、結構な策士ぶりを発揮する。各国の問題が山積みの中で、ちっぽけな国の気候変動などに積極的対策をとってもらうのは難しそうだ。ナシードは反対されたら一度引き、また翌日出向く。数字の妥協も受け入れるが、しっかり要求もする。粘り強い交渉と感動的なスピーチの結果、多くの賛同を得て、全ての国が地球温暖化を止めることに貢献できることを示した。
凄い。さすがに拷問に耐えてきただけあって、根性が座っている。こういうリーダーが日本にも絶対に必要だと思った。なんとか党みたいなデカイ恩恵に頼った政治では難しい言葉をこねくり回してるだけで、なにやってんのかよくわかんない。一般市民のお金は消えてゆくばっかだし、放射能は出っ放しだし。日本のリーダーも、なりふり構わず問題に立ち向かってくれたらいいのに。
そんなことを考えてたら、衝撃の事実をラストシーンで知る。ナシードさんが辞任したと短い字幕。「銃で囲まれ、辞任しなければ、それを使うことも辞さない」と言われたそうだ。独裁政権は根が深い。ただ彼は簡単にギブアップするひとではない。民主化も温暖化への挑戦も、あきらめないそうだ。せめて映画を観たひとが少し意識を変えたり、動き出してくれることを願っているとメッセージがあった。
余談、レディオヘッドの音楽は好きだ。美しい。でも絶望感を助長するのは何故だろう(笑)
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