キューティー&ボクサー

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ブルックリン在住の現代芸術家、篠原有司男(通称ギュウちゃん)と、妻でありアーティストでもある乃り子夫婦の姿を追ったドキュメンタリー作品。
アートは悪魔、悪魔に引きずられていくものがあらわれる、という言葉が印象的だった。ギュウちゃんはボクシング・ペインティングで知られる芸術家だ。日本で初めてモヒカン刈りをしたり、ゴミのようなガラクタでアートを造ったり、その反骨精神で60年代、一世を風靡したらしい。しかし1963年、渡ったニューヨークでは思うように認められず燻り続けている。
彼は現在81歳。あまり裕福そうではない暮らしの中で異様に元気。若々しい声だけ聞くと20代の血気盛んな男のようだ。その元アルコール依存症の、トラブルも多い男の側にはいつも乃り子さんがいる。
彼女は19歳のときに美術留学でニューヨークに来て、ギュウちゃんと恋に落ちたという。お嬢様だった彼女の転落人生の始まりだ。
よく聞く芸術家とミューズの関係といえばそうだが、乃り子さんの複雑な葛藤がちゃんと描かれているところが良かった。愛は綺麗なだけじゃない、一欠けらの幸せの為に、物凄い量の痛みを引き受ける覚悟が必要。彼女の静かに燃える怒りや深い愛情が伝わってくる。
キューティーというのは乃り子さんが最近始めたドローイング、ペインティング作品のヒロインだ。彼女自身を投影したキャラクターのキューティーはツインテールの闘う女の子で、夫のブリー(牛、つまり有司男)との葛藤の歴史が描かれている。無神経で飲んだくれのブリーを上手く扱い、勝ち続ける痛快な物語だ。ポップで可愛らしいアニメーションのようだ。でも性器がデフォルメされているところなどは生々しく、可笑しさと哀しさが共存している。乃り子さんは自分とキューティーは違うと言う。そんなに上手く男を扱えなかったと。
アートに向かわざるを得ない二人がボクシングをするシーンがあった。派手な色のペンキを撒き散らしながら闘う。主に殴るのは乃り子さんだが、防御するギュウちゃんも真剣だ。グッとくる、非常にいいシーンだった。